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別天地へ行け 16 谷 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

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16 谷

第21区へ向けて岩壁ストリートを急いでいると、同級生の母親に話しかけられた。

「おはよう!乃亜ちゃん。今からどこ行くんだい?」
「おはようございます。友達のところへ行ってきます」
「気をおつけ。あんた、女子はね、暗くなる前には家へ帰らなきゃ危ないんだよ。わかっているね!?」
「わかっています・・・でもまだ、朝ですから」

振り返ると、おばさんは、まだこっちを見ていた。
大人はいつも、警告ばかりで、具体的には話してくれない。
考え事をしながら歩いていると、第22区と第21区の境へやって来た。ここまで来たのは、久しぶりだった。ここから先は峡谷になっていて、絶景が広がっている。第21区は峡谷を下りて行った先にある。
ふいに、どこからか太鼓の音がして、音が止むと、谷の底から美しい鐘の音のメロディが鳴りだした。
私は、人が近づいてきたことに気づかないくらい、音楽に心を奪われていた。

「おい」
「わー、びっくりした!」
「乃亜、またひとりでこんなとこまで来たの?」
「蓮こそ、何してるの?」

まさか、待ち合わせてもいないのに蓮に会えるとはラッキーだった。蓮は、小ぶりの太鼓を持ち上げてみせた。
「昼のチャイムを鳴らす仕事。これをある場所でたたくと谷に反響して、谷底にあるでっかいオルゴールが動き出し、鐘が鳴りだすという仕組み」
「へえ、おもしろい」
「谷全体が音楽ホールのようになっていて、小さな音も反響しやすくなっているんだよね」
「それじゃあ、谷ではないしょ話はできないわね」
「するなら、でかい声でしろってことだな」
「そうだわ。あなたに、これを返しに来たのよ、携帯灯。昨日のリウヤ君のお姉さんのことも聞きたくて」
「お姉さんは、昨日は帰って来なかったよ」
「心配だわ。きっと、禁止岩の奥のほうへ行って、戻ってこられなくなっているのじゃない?うちのお隣のマナさんだって今朝になったらいないの。家の前にくつの片方が落ちていたのよ。心配でしょう?」

蓮の反応が鈍く、私は、わかってもらいたくて必死になった。
「ゆうべも叫び声が聞こえたの!『たすけて』って。おかしいでしょう!?」
「そんなにでかい声出さなくても」
「なによ、ないしょ話はでかい声でしろって、さっきは言ってたじゃないの!」
「はぁ」
蓮は、苔草の上に座り込んで頭を抱えた。

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2013-10-21 16:22  nice!(14) 

別天地ヘ行け 15 深夜の物音 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

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15 深夜の物音

寝る前に、大事なものを整理した。
勉強道具一式、母さんからもらったかばん、バザールで買った石板、小さな香水の瓶、そして、いつだったか、里奈と蓮とお揃いで買ったストラップもあった。一番大切なものにそれぞれがつけるという約束で買ったのだったが、私はまだどこにもつけていなかった。
そして、さっき、母さんからもらったかばんの中には、時を越えて、父さんからの手紙が入っている。これは、この中で一番エキサイティングな宝物になりそうだった。どきどきしながら取り出してみるとそれは、ぴっちりと糊で封をしてあり、すぐには開けられなかった。
父さんは、私にどんな言葉を残してくれたのだろう。
ナイフの刃先を封筒に当てたその時だった。

外から、物音が聞こえた。
私の部屋は、ストリートに面しているため、窓から音が聞こえることがあるが、今はもう、「半月」の時。いつもなら、誰も通ることのない時間だった。
気になったので、梯子をのぼり、窓の覆いを上げて丸い穴から外の様子をうかがおうとしたその時、声が聞こえた。

「たすけて!」

その声は、どこかで聞いたことがあるような放っておけない響きを帯びていて、私の胸をぐっとつかんだ。

「誰・・・?」

梯子の一番上にのぼり、窓から顔を出したが、すでに、ストリートには、姿はなかった。どこからともなく吹く風が、通り過ぎるのみだった。
今、確かに、声がしたのだ。「たすけて」と・・・。

次の朝、朝食の時、母に訊ねた。

「ねえ、母さん、昨日の夜、外で音がしたわ。何があったのだと思う?」

母さんは、サンドイッチを食べながら、答えた。

「何でもないわ。きっと、保健局よ」
「保健局は、あんな遅い時間に来る?」
「ええ、たまには、そういう時もあるわ」
「でも、夜に保健局に連れて行かれるなんて、きっと、とても嫌な感じでしょうね」

母さんは、手からサンドイッチを落として、むせた。

「大丈夫?母さん」

私が立ちあがって、背中をさすると、母さんは静かな声で言ったのだ。

「乃亜ちゃん、そんなこと言ってはだめよ」
「どうして!?」
「保健局の人達は、嫌がる人を無理に連れていくわけじゃないのだし、国のために仕事をしているのだから、とてもいいことだと思わないといけないわ」
「でもね、母さん、昨日は『たすけて』って声がしたのよ?それって・・・」
「もう、やめてちょうだい、乃亜ちゃん・・・ゴホッ、ゴホッ」

母さんは興奮すると、咳が出てとまらなくなってしまう。
止むなくこの話を続けるのをやめて、母さんを布団に寝かせた。
家のことを終わらせて、外に出ると、お隣の家から、ジョウくんとゼタくんの兄弟が出てきた。

「おはよう」
「おはよう。僕たち、おなかが減って死にそうだよ」
「朝ごはんは、まだなの?」
「うん。これから、ふたりでいもを掘ってくるんだ!」
「おいもを?お母さんは?」
「母ちゃんが、食べるもんがないから、いもでも掘ってこいってさ」

そう言ってスコップを振り上げて、ジョウくんが、明るく笑った。
私の家だって、いつもささやかな食事だが、2人きりの家族だから、食べていける。お隣は、人数が多いとはいえ、そんなに食べるものに不自由しているだなんて知らなかった。お母さんはもうお年を召しているし、どこかから仕送りをもらっていないのかしら。マナさんにしても、身体が弱いので、保健局での繁殖の仕事は免除されているし、どうやって生計を立てているのだろう。

すると、ゼタくんが、道端で、片方だけ落ちていた靴を見つけて拾った。

「これ、マナ姉ちゃんの靴だ!」
「ばか、早く、玄関に置いてきな!行くぞ、ゼタ!」
「あ、待って!」

男の子2人は、弾丸のように走って行った。残された私は、薄々感じていた知りたくない事実を、つきつけられたような思いで、戦慄を覚えた。
道端に、片方だけ落ちていたマナさんの靴。
昨晩、「たすけて!」と叫んだ、どこかで聞いたことのある声音。
いつも面倒を見てくれた優しいマナさんは、今どこに?
昨日公園でいなくなったリウヤくんのお姉さんも、無事に家に帰っただろうか?
一度渦巻いた疑念は、なかなか消えない。
そうだわ、蓮ならきっと、知っているはずだわ。
私は、いったん家に帰り、蓮に借りた携帯灯をポケットに入れ、かばんを肩にかけて、再び出かけた。
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2010-09-02 16:01  nice!(4) 

別天地へ行け 14 父さんのおとぎ話 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif14 父さんのおとぎ話

「母さん、父さんは今頃、天国で何をしているかしらね?」

私が聞くと、母さんは目をつぶった。

「そうね、父さんは、やると決めたらとことんやり遂げたい信念の持ち主だったから・・・天国でも、あちこちの土を掘り返して、何か、不思議なものや神秘的なものを、探しているかもしれないわね」

母さんが目を開いた時、酔っているからか、父さんのことを思い出したからか、視線が揺れた。私は、懐かしい父さんの思い出を話した。

「父さんは、たまに家に帰ってくると、旅土産をくれたよね。きのことか、紙とか、笛とか。なかでも私ね、父さんが旅先で仕入れてきた『おとぎ話』が大好きだったの。母さんは覚えてないかもしれないけれど、『地上』についてのお話・・・私、大好きだったんだ。ねえ、母さん?この世界のどこかに、『地上』につながる『別天地』があるっていう話、覚えている?」

母さんは、悲しそうにうなずいた。

「『別天地』は、おとぎ話であり、研究テーマだったわ」
「研究テーマ・・・って、父さんの?父さんは、おとぎ話を研究していたの!?」

初めて聞く話だった。私は、母さんの話し出すのを待った。

「父さんは、おとぎ話に夢中になり過ぎたのね。世界中を旅してまわって・・・ついには、命を落としてしまったわ。『別天地』へ行こうだなんて、馬鹿げたことよ。おとぎ話の世界を追いかけすぎたのがいけなかったの。所詮、絵空事をいくら追いかけたところで、無いものは無いのだから・・・父さんには、それがわからなかったのよ」

私は、胸に高まりを感じていた。

「そりゃあ、おとぎ話なんて絵空事かもしれない。でも、父さんが生涯をかけて研究していたことなのだから・・・どこかに真実が隠されていたからこそ、夢中になったに違いないわ」
「父さんが、あなたの今の言葉を聞いていたら、喜ぶでしょうね。父さんは、あちこちで集めた石板を解読して、書かれていることに共通点があることを発見したの。『真実はひとつ』だって言っていたわ」

わたしはその頃、ほんの子供で、父さんが帰ってくる度に、おみやげは?と聞いていたのだった。リュックの中をのぞくと、石ばかりでがっかりしたことを思い出した。
でも、そうまでして集めた石版が、なぜ、今、わたしの家にないのかしら。

「母さん、石板は今、どこにあるの?」

はっとした。母さんが、目を丸くして私を見つめている。

「乃亜ちゃん・・・母さんが悪かったわ。父さんは立派な人よ。でもね、好奇心旺盛なことが、あだになることもあるの。石板は父さんが亡くなってから、国へ寄贈したわ。ひとつのことを命をかけて探求できる父さんを・・・母さんは、誇りに思っている。だけど、あまりに早く天国へ行ってしまったことを、恨んでいる気持ちもあるの・・・」

「ねえ、母さん!『別天地』にはすばらしい光の世界があるんだって、父さんが言ってたわ。『別天地』には、まだ誰も見たことがない光の柱が交差していて・・・千の月と日の柱を並べても追いつかないほどのその輝きは、たったひとつの松明をもって照らされるんだって・・・!父さんは、たったひとつの松明を持った人になりたくて旅を続けていたんじゃないかしら。私、父さんの考えがわかる気がするわ。だって私は、たった一人の父さんの子供なんだものね」

その夜、久しぶりに父さんのことを話した私達は、夕食の片づけとお祈りを済ませた。

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2010-08-08 15:24  nice!(0) 

地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜ちゃんシリーズ♪ 目次はこちら [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

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別天地へ行け (地下世界ヲ脱出セヨ)        
                                          
時は、西暦2522年。
地下世界で暮らす乃亜は、父さんの遺志を継いで旅に出る。まだ見ぬ地上を目指して・・・1
第1話
第2話
第3話
第4話
第5話
第6話
第7話
第8話
第9話
第10話
第11話
第12話
第13話
第14話
第15話
第16話

続きは更新をお待ちくださいませ(^O^)/♪


2010-07-15 15:02  nice!(0) 

別天地へ行け 13 母からの贈り物  [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif13 母からの贈り物

家に帰ると、母さんは、奥の部屋で休んでいた。

「母さん」

呼びかけたのだが、ぐっすりと眠っていて起きなかった。
母さんは、この頃よく、体調がすぐれないことを口にするので、心配だ。
卒業のお祝いをしてくれるからと、朝からはりきっていたせいで、きっと疲れたのだろう。
石造りのテーブルの上に、おいしそうな料理が並べてあった。
お腹がすいたので、ちょっとだけつまみぐいをした。
母の味は、久しぶりのような気がした。
父が亡くなってから後、母は、私を育てるため、一生懸命に働いてくれた。
セラミックのうわぐすりを調合する仕事は、繊細な技術が必要だから、細かい神経の持ち主の母さんにとっては合っているかも知れないと思ってはみるが、働き過ぎは、身体を壊してしまう。
母さんに少しでも、楽をさせてあげたい。
私は、母に上掛けをそっとかけてあげ、自室へ入り、かばんを置いた。
それから、自室を出て、髪をひとつに束ね、夕食の準備にとりかかった。

(今日は、ごちそうだから、お祝い用のお皿を使っちゃおう)

私は、戸棚から、瑠璃ゆう色のお皿を選んで、テーブルの上に置いた。

大昔から、第22区の人々は、セラミックを作って暮らしている。
村のあちこちに、小さな窯がある。
セラミックは、土を固めたものに、うわぐすりをぬって、窯で焼いて作る陶磁器で、素焼きのもあれば、硬質で極彩色のものもあった。
幼い頃、父さんと一緒に、村一番の窯場へ行ったことを思い出した。

「セラミックはここで作っているんだよ」

その時の父は、上気していた。
あちこちの釜の熱気もすごくて、わたしは、近づいたらやけどをするのではと怖れた。

「セラミックは、万物の色をすべてをあらわすといわれているんだよ。うわぐすりを混ぜるやり方や、窯の熱さ、炎の感じや空気の入りかたで、たくさんの色あいが出てくる。美しいね!まるで地上の神秘のあらわれのようだ。この村のセラミックは地下世界が誇る芸術だ」

子供は、親から教わって、いい土を捜しに行く。
それが日課だ。
私も、母から、いい土の見分け方を、小さな頃に習った。
少し大きい子供は、土の成形をするようになる。
家の神様の御膳にささげる素焼きの皿を作るのだ。
神様の御膳のお皿は、毎日新しいものと取り替えられ、使った皿は、土へ戻される。

そこへ、母さんが起きてきた。

「母さん、具合はどう?」
「すこし眠ったらよくなったわ。あなたが帰ってたのに、気づかなくてごめんなさい」
「私、何にもしてないわ。お皿出しただけだもん。母さん、ごはん食べられそう?」
「ええ、せっかく、今日はごちそう作ったのだから。いっぱい食べてね、乃亜ちゃん」

私と母さんは、いつもより豪華な食事を前に、乾杯した。

「これからは、母さんが楽できるように、私が家のことをするね」
「・・・あなたは、自分のことだけ、考えなさい。母さんのことはいいのよ」
「そんなこと言わないで。私だって、母さんの病気、心配なんだもの」
「母さんは、大丈夫よ。あなたに、渡すものが、あるわ。はい」

それは、新しいかばんだった。麻布でできた丈夫そうな生地でできていた。

「ありがとう。新しいかばん欲しかったのよ」
「中を開いてごらんなさい」

かばんの中に手を入れると、茶色い封筒が入っていた。

「手紙・・・なんて古びた封筒」
「あなたが、中学を卒業したら、渡してほしいって、父さんに言われていたのよ」
「まさか、父さんからの手紙なの!?」

母さんは、微笑んだ。

「すぐ開けてみなきゃ」
「いいのよ。後で、ゆっくり読みなさいな。それは、あなたへの大切なメッセージなのだから」

母さんは、そう言って、祝いの杯を飲みほした。

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2010-07-13 11:30  nice!(0) 

別天地へ行け 12 嘘 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif12 嘘

時は、いつの間にか「宵」に変わり、世界は、青白い薄明かりに包まれた。
里奈は、何にも言わずに、蓮に抱きついて泣いていた。
蓮は、困った様子だったが、やがて泣きやんだ里奈と、握手をかわした。

「さあ、もう帰らなきゃ。これからは、学校で会えなくなって、寂しくなるけど、頑張れよ。里奈は、笑っていたほうが、ずっといいよ」
「うん・・・」

蓮がこちらを見た。目が里奈をよろしくと言っていた。

「心配しないで。そっちは、リウヤ君をよろしくね」
「そうだ、これ、携帯灯を持って行って」
「いいの?」
「いいんだ。僕らは多少暗くても、平気さ」

蓮は、リウヤ君を背におぶって、第21区の方角へ歩いていった。

別れ際、里奈が、再び声をかけた。

「蓮!ばいばい!」
「おー!ばいばい。気をつけて」

蓮は、振り向いて笑い、去って行った。
さあ、里奈には悪いけど、なんだか疲れた。
私達も、急いで帰らなくては。青白い地下道に、もう歩く人の姿はないのだから。

地下道を歩く足音が、かつんかつんと響いた。
里奈は、私の腕にぴったりと寄り添っていた。
今日で、学校を卒業したとはいえ、「宵」の頃に外を歩くことは、少女時代にはあってはならないことで、恐ろしいのだろう。

「蓮が、男子達と一緒に、私に求愛したって話した時・・・焦った?」
「えっ?」

焦ってなんかいないわよ、と言おうとして、私は口をつぐんだ。それを言ったら、たぶん嘘になる。あたしは、ちょっとは焦ったし、羨ましくも思ったのだから。

「わかってる。乃亜は、そんな人じゃないもんね。いつも冷静だしさ。でも、悔しいから言わないけど、蓮の気持ちは、あたし手に取るようにわかる。・・・わかりたくないことでもね。伝わってきちゃう。あっ、でも今日は、蓮にハグしてもらって全部帳消し。幸せだからっ」

小川も、まるで私達とお話しているかのように、こぽこぽと音を立てて流れた。その音は心地よいBGMとなり、心にあったわだかまりをも、冷たく流し去っていった。
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2010-07-12 22:46  nice!(0) 

別天地へ行け 11 夕月の誓い [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif11 夕月の誓い

人影は、携帯灯をミニマムにして、ぱっとつけた。

「!」

蓮だった。

「もう、帰ったのだと思っていたわ。何してるの?」
「君の方こそ、どうしてこんなところへ?」
「こんなところって、ここは広場でしょ?」
「禁止岩の奥だよ!」
私は、公園を出て、居住区外の禁止岩を越え、さらに奥の、キサマの灯の届かない、ずっと暗がりの場所に来ていた。

「う、嘘でしょ!?なんで・・・」
蓮が、止めてくれなかったら、もしかしたらずっと先まで歩いていたかもしれない。

「匂いに誘われたんだ」
「そんなっ」

急に、息が苦しくなり、鳥肌が立った。
匂いに誘われて、こんなところまで来てしまうだなんて、自分が信じられない。
でも、それは、事実だった。
そして、いよいよ強くなる甘い匂いは、さらに奥の岩の向こうから流れてくる。誰かが、奥で匂いの元を作っているに違いない。

「この奥で、何かを燃やしているんじゃないかしら・・・誰かが火遊びをしているとか?」
「大丈夫。火元はもう消してある」
「でも・・・」
「心配いらない。さあ、早くここを出よう」

蓮は行こうとしたが、私は、足をとめた。

「待って!もしかすると・・・この奥に、リウヤ君のお姉さんがいるかもしれないの。蓮と同じ第21区に住んでいる子よ、知ってるよね?」
「うん」
蓮は、歩き出した。私は、蓮の背中を見ながらしゃべり続けた。

「その子のお姉さんが、見当たらないの。一緒に来たはずなのに、公園にいないのよ。もしかして・・・あの奥にいるんじゃ・・・」

私は、蓮の背中にぶつかった。彼は、急に立ち止まると、振り向いて、私の両肩に手を置き、力を込めて言った。

「そのことを、僕以外の誰にも話しちゃいけないよ」
「どうして?」
「とにかく、君は早く家に帰ってくれ。ここは、危険だから。夜になる前にはやく!」

速足で歩きだした蓮に、強く手をひっぱられて広場に戻ると、時はすでに、夕月だった。
リウヤ君は、砂場でトンネルを作って遊んでおり、里奈は、ストンに座っていた。

「里奈!」

名前を呼ぶと、里奈は、顔をこちらに向け、少しほっとした様子を見せ、すぐに再び、こわばった顔になった。

「ごめんね、探したよね?」

里奈に、私の言葉は耳に入っていないようだった。里奈は蓮に向かって、いきなり攻撃的に言った。

「蓮、何しに戻って来たの?なぜ、乃亜と一緒なの?」
「私がね、禁止岩の奥へ・・・」
「僕が話す」

蓮は、里奈をなだめるのが得意だ。でも、今日の蓮は、何かが違っていて・・・。

「里奈、さっきは、ごめんよ。僕、やつらと、約束していたんだ。君を今日ここに連れてくること」
「そう」
「君の気持ちも考えないで、ごめん。ただ、やつらみんな君のことが好きなだけだから」
「聞きたくない」
「これからも、偶然会った時には、ちょっとは愛想よくしてやってくれよな。」
「・・・うん、でも、それは気が進まないけど」

蓮は、里奈の気持ちがわからないのだろうか。
彼女は、たくさんの男子達に好かれることを望んでいるんじゃない。彼女の望みは、たったひとりの大好きな人から愛されることだってことを。
そして、その大好きな人が、自分だってことも。
私は言った。

「ねえ、蓮!あなたの言いたいことはわかったわ。今度は、里奈の気持ちを聞いてあげて」

私は、里奈にかけよって、小さな声で言った。

「里奈、はっきり言わなきゃ伝わらないわ。ほら、今がチャンスよ。『夕月の誓い』を彼とするんでしょう。今がチャンスだわ」
「えーっ?えっと・・・急に言われたって、その・・・」

その時、リウヤ君が、里奈の顔を見上げた。

「里奈ちゃん、真っ赤っかだよ、どうしたの?」
「夕月の灯りのせいよ」

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2010-07-07 16:54  nice!(0) 

別天地へ行け 10 ストンサークルで遊ぶ少年 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif10 ストンサークルで遊ぶ少年

里奈と私は、公園に戻った。
その頃にはすでに、男子達の姿はなく、いたのは、幼い子供だった。
幼い子供は、広場にあるストンサークルで遊んでいる。
ストンサークルは、3重円になっていて、
外側のいちばん大きいサークルの中に中くらいのサークルがあり、中央には、まるい水色のタイルが敷かれている。
中央の水色のタイルは、特別な場所だった。
みんなで水色のタイルまでストンを飛んでいくのが、人気の遊び方だった。

「昔は、よく遊んだよね」

里奈は、涙を拭いて、幼い子の遊び相手になろうと、近付いていく。里奈は、大人から同世代、老若男女問わず、よく好かれるが、幼い子にはとくに優しく接する。
私自身は、どちらかというと、大人としゃべっている方がラクで、子供の相手は苦手だった。
子供というのは、すぐに泣いたりわめいたり忙しい。
けれど、この幼い子は・・・?

「あの子、一人で遊びに来ているのかしら。他に誰もいないわ」
「そうね」
「話しかけてみようか」

ストンの中央にいた幼い子に近づいた時、里奈が、あっと声をあげた。

「リウヤ君じゃないの」
「知ってるの?」
「ええ、第21区に住んでいる男の子よ」

リウヤ君は、顔をあげた。
里奈が近づき、目線を同じくして、話しかけた。

「誰と来たの?」
「おねえちゃんと」
「そう」

里奈がにっこり笑って、リウヤ君の頭をなでた。

「おねえちゃんはどこいったの?」
「あっち」

リウヤ君は、立ち上がって、1つの方向を指差した。

「里奈、どうする?」
「リウヤ君と、ちょっと遊んでから考えましょうよ」

里奈とリウヤ君は、2人で飛び石ごっこを始めた。
一緒にやろうと誘われたが、
私は、リウヤ君のお姉さんが、戻ってくるかどうか気になっていたので、リウヤ君が指差した方へ行ってみることにした。
このまま時間が過ぎれば、「夕月」「宵」と時間が過ぎる。
リウヤ君のお姉さんが、どこまで行ったかわからないが、幼い弟を残して、そう長時間離れるはずはないし。
そう考えて、ふっと息をついた時・・・

(あれ?)

広場の出口から、立ち入り禁止岩へと続く道の前で、私は、立ち止まった。

(なんだろう)

匂いが漂ってくる。
(この匂いは、・・・何かを燃やしたような匂い?この奥で何かが燃えているのかしら?何だろうこの匂い。こんなしびれるような匂いは初めてだわ・・・)
そこで、脳にしびれるような感じがして、気がついた。
(そうだわ。学校の川べりで、里奈と過ごした正午の時・・・あの時の匂いだわ。あの時は、こんなに強くなくて、微量だったから…気のせいじゃないかと思ってしまうくらいだったけど。でも、今度は、違うわね・・・)

そこで、わたしは、急に、誰かに腕を掴まれた。
「何してるの?」
驚いて目を開けると、暗がりの中に、人影があった。

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2010-07-04 14:19  nice!(0) 

別天地へ行け 9 友情 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif9 友情

「何しているの?」
「乃亜はここで待っててくれる?ごめん。里奈、ちょっと一緒に来て」

蓮は里奈を連れて、公園のほうへ歩いて行った。橋のたもとで待つことになったわたしは、2人が行くのを見守った。
1か月前、蓮のあの言葉を聞いてから、私は、思い出す度、心臓がどきどきした。

(・・・乃亜は、卒業しても、僕を、ずっと見ていてくれよ)

男は、所詮、ひとりの女の子を思うことなんてできやしない・・・そういう世の中なんだってわかっているはずなのに、矛盾した想いが胸に涌いてくる。
もしかしたら蓮は・・・社会から逸脱してもひとりの女の子を愛そうとする人なのかも知れない・・・なんて、夢のようなことを考えていたこの1か月間。
私は、首を振る。
そんなことがあるわけがない。

(私が蓮のたったひとりの女の子だったなら・・・)

そんなふうに夢見るのは、里奈に失礼だ。
けれども、里奈との友情よりも、なんだかとってもときめいていて、悔しいけれど胸のたかまりが抑えられなくなる。
そして今、里奈と蓮の並んだ背中を見ていて、胸が苦しい。
わたしは、蓮のことが好き・・・?
それでもまだわからない。
人を好きになる気持ちは、もっと、純粋できらめいているもので、こんなに苦しいものじゃないと思う。
これはただの嫉妬だわ。
人を想う気持ちは、もっと輝いているはずだもの。
ひどい心を、里奈に、いいえ、誰にも見せたくない。
心の中だけとはいえ、蓮のことを奪い、裏切ってごめんね、里奈。

ひとりで帰ろうときびすを返した時、里奈が走って戻って来た。
「乃亜!待って!」

途中ころんでついたひざの汚れを両手ではらい、顔を上げるとその顔は、失望と怒りに満ちていた。

「ちょっと聞いてよ!」
「どうしたの?」

里奈は、息を飲み込んだ。

「男子達がね、保健局に登録する前に、私に求愛したいって言うのよ!」
「えっ!?」
「もう行こっ・・・早く行こ!」

里奈に背中を押され、私達は、公園の橋を渡って、岩壁ストリートへ戻った。遠くの方で、男子達が何かしゃべっているのが聞こえたが、段々声が小さく聞こえなくなっていった。

「あたし、知らなかったわ。男子達にも、あったなんて」
「あったって、何が?」
「『夕月の誓い』の男子バージョンよ」
「はじめて聞いたわ。そんなの」
「あそこにいた男子全員で、あたしに求愛させろっていうのよ。それでね、みんなであたしのこと取り囲んで。男子達、すごく興奮していて、ばかみたいだった」
「蓮も?」

里奈は、その質問に、口をゆがめた。

「そうよ。蓮はばかな男子達とは違うと思っていたのに!」

それから、大粒の涙を流し、嗚咽し始めた。蓮が、男子達と、里奈を囲んで求愛するだなんて、本当だろうか?

「里奈、大丈夫?」
「あたし、勘違いしていたみたい。ううん、というか、やっぱり・・・男の子ってばかみたい!」

 彼女の泣いている姿を見て、幼い頃からのことを思い返した。いつもそうなのだ。男子達は、こぞって里奈と話したがり、笑わせたり、泣かせたり、いじめたりする。その度に、里奈が泣きついてくるから、蓮に注意をしてもらうのだった。今まで、里奈のことを、かばってくれる唯一の男子が、蓮だったのだ。

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2010-07-01 20:20  nice!(0)  コメント(0) 

別天地へ行け 8 卒業式の帰り [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif8 卒業式の帰り

1カ月後。
男子生徒30名が終業式を、女子生徒4名が卒業式を迎えた。
学生の間は、男も女も関係ないという意識でよかったけれど、
これからは、男女それぞれの道を歩んでいくのだと思うと、胸にいいようのない悲しみのようなものが広がった。
校門の前で、私たち女子4人は、しばらく抱き合ったり会話をしたりして、別れを惜しみ合った。

「あたし達の絆は永遠よ」
「これからも、ずっと一緒よ」
「じゃあ、またね」

卒業式の帰り道を、里奈と一緒に楽しんだ。
里奈は、さんざん泣いた後、すっきりしたみたいだった。

「学校生活が、すべて、終わっちゃった」
「うん」
「涙も、とまっちゃった」
「とまらない涙なんてないもの」
「あるわ。さっきは、本当に悲しくて、川のように涙が流れて、目が溶けてしまうかと思った」
「目はついてるわ、泣き虫ちゃん」
「よかった!泣くとすっきりするのって、なんで?不思議だわ」

私と里奈は、学校の川べりで、川の流れを見つめた。
私たちをいつも潤してくれた大切な川。川は、私たちの命の源だ。これからも、私たちのために、ずっと変わらず、流れ続けてくれますように。
そして、キサマも、私達に、永遠に、希望の光を照らしていてくれますように・・・。

さらさらという瀬音とともに「正午」の時が来て、キサマが、強烈な光を放ち始めた。
「正午」の灯は、心も体も照らし出してくれる光だ。

「わぁ、暖かい。元気出るね」
「そうね。こうして目を閉じたら・・・」

水の流れる音をBGMにして、まぶしい光が、私たちを包んでくれる。そのなかで感じるささいな異変。

(・・・何かしら?このにおいは・・・?)

わたしは、はっとした。
風がどこかから吹いてきている。そのなかに、本当に微量な、何かのにおいが混じっていた。

「里奈、あなたも感じる?」
「なあに?」
「風が吹いてる・・・その中に、なにかいやなにおいが混じっていない?」
「あたしには、わからないな・・・乃亜は敏感ね」
「嫌な予感がする。速く帰ろう」

私たちは、手をつないで、岩壁ストリートを急ぎ足で歩いた。
生ぬるい風、いやな風。
正午の光で温められた空気に、対流が起きたせいだけだろうか?
つないだ手に、汗がにじんだ。

橋を通り過ぎる時、公園に、男子達が、集っているのが見えた。
どきっとした。
蓮が、大きく手を振っている。

「何かしら?行ってみよう」

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2010-06-19 18:19  nice!(0)  コメント(0) 

別天地へ行け 7 白光の告白 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif7 白光の告白

その言葉は、本気だろうか?居住区外へ行くなんて?
あそこは、ほとんどがさら地で、立ち入り禁止の岩に、しめ縄が結ばれている。
あの辺り一帯は、灯りが少ないから、遠目に見ても、暗い地平が広がっていて怖い。
吸い込まれそうな闇が、奥に待ち構えているのだ。
冒険好きの少年ならば、一度は、携帯灯を持って、禁止岩の奥へ行ってみようとするだろうけど、私の周りの女子にはそんな勇気のある子は、いなかった。ただでさえ、女子は人数がとても少ないし、万が一、戻ってこられなくなるようなことがあってはいけないと、そのあたりは、親がきつく少女達を禁じていた。

「蓮は、怖くないの?もしかして・・・行ったことがあるの?」
「ああ、禁止岩の向こうには、岩陰がいくつかあって、そのさらに向こうには、横穴がある。横穴の向こうへは行ったことがないんだが・・・。見慣れない集団が、横穴からやってくるのを見たことが有るんだぜ!」

蓮は、未知のものに憧れる男の子らしい面を見せた。だが、里奈に、その冒険心は通用しなかった。

「だめよ、そんな危険なことをしちゃ!乃亜の石板のことは、不可抗力だったんだもの。可愛そうだけどしょうがないじゃない。ね?それに、その石板にもし価値があれば、バザールで逆に売ってみたらどうかしら?もしかしたら、いいものと交換してくれる人がいるかもしれないわよ」

里奈は、実用性に富んだ考え方ができる。良き母さんになる素養を持っている。

「そうしてみようかな。それ、すごくいい提案ね、ありがとう」
「でしょう?ほら、乃亜がそう言っているんだから。絶対にやめてよね、居住区外に行くなんて、あたしが許さない」

里奈は、蓮の前で、わかりやすく、両手を広げて通せんぼをして見せた。

「ねえ、ところで、蓮ったら、誰と一緒に来ているの?」
「ああ、あいつらだ。あそこにいるよ。大道芸人の前でしゃべってる。ジャグリングの真似してるぜ、何やってんだ」
蓮は、男子の輪のなかへ戻って行った。
蓮の友達は、第21区に住む、おしゃべり好きな明るい男子達だった。クラスは違ったが、みんな顔見知りだ。
こちらを、ちらちら見ては、叩きあったり、笑ったりしている。
「里奈、こいつらが、話があるってさ」
里奈は、男子に呼ばれた。

「え~、なんかふざけてるみたい。あたし、蓮と話したいんだけどな」
人の好い里奈は、誘いを断れない。里奈は、男子の輪のなかへ入って行った。

入れ代わりに、蓮が私の隣に来た。私達は、近くの座石に並んで座った。

「そうだ、勉強は、どう?選抜、うまくいきそうなの?」
「う~ん、まあここまで来たら、気分転換が大事かと思うよ」

男子は、来週早々に、試験がある。
まず、来週の試験で、選抜メンバーが決まるのだ。
蓮は、両手を組み、真剣な表情になった。

「僕らの人生の道は、幾つもに分かれているが、最初の分かれ道で、すべての出世へ続くドアは開かれ、そして閉じられる。優秀な者は、地下社会のために貢献し、プログラムを換えていく存在となり得るが、そうでない者は、容赦なく切り捨てられる。今の頑張りが後のすべてを決めるんだってはっきり言える」
「今が、頑張り時ね。でももし、選抜に落ちた場合は、どうなるの?」
「あと3年の猶予がある。その間に、自分の得意とすることを磨いていけばいい。もしも、その3年間で、技術を磨けなかった者は、開拓者として登録され、地下社会の広がりのための力となる。暗い穴倉のなかで作業を行う者は、いつの時代でも、大勢必要とされるからね」
「蓮のその細い身体じゃ、肉体労働は無理ね」
「ひどいな」

蓮は、笑った。
「けど、選抜にもれると、自分の遺伝子は、どこにも受け継がれないし、政府は、頭脳の優秀な精子を、後世へと引き継ごうとしているからさ」

「がんばんなきゃね。油断は禁物よ」

実は、私も、勉強が嫌いではなかった。
女子は、「良き母さん」となるべく教育を受けるが、私は、ひそかに蓮の教科書を借りたり、本を読んだりして、学びたい分野の知識を得ていた。
学びたいことはたくさんあって、今だって、とても知りたいことばかりある。
この社会のシステムのこと、これからの地下社会の過去や未来について、まだ見たことのない場所について、
そして、そう、「 別天地 」について・・・。

「乃亜は、もったいない」
蓮が、私に参考書を貸してくれる時のお決まりの言葉をくれた。

「社会が、産めよ増やせよの風潮だからさ、女子っていうだけで、多産を強いられているけど、乃亜ならもっと上を目指せるのにな、もったいないよ。できるなら、もっとさ、切磋琢磨したかったよ。乃亜は、男だったら良かったのにな」

私にはその言葉はくすぐったかった。

「それを言われるとね」
「わかったよ。乃亜が男になる代わりに、僕が頑張って選抜に受かって、将来は、僕達の遺伝子を持った優秀な子供をつくればいいんだ」

「僕たちの遺伝子・・・?」

「いや、わかっているよ。保健局はランダムに相手を決めていくんだ。まさか、乃亜に、直接、求愛できるはずがないし」

蓮は、私のほうを見ないでしゃべり続けた。

「でも、未来のことはわからない。可能性はある。だから、乃亜は、卒業しても、僕を、ずっと見ていてくれよ」

蓮が、ちらりとこちらをの様子をうかがった時、私の心臓が大きくどきんと音を立てた。
何なの?これは?私は、蓮の気持ちを探ろうとしたが、淡々としていてよくわからなかった。逆に、自分の動揺を抑えるのに必死だった。
広場には、「白光」が灯っていた。

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2010-06-14 01:46  nice!(5)  コメント(5) 

別天地へ行け 6 居住区外は危険 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif6 居住区外は危険

私達は、蓮のいる場所まで走った。蓮は、背が高く、細身ですらっとしている。腕組みをして不思議そうに、大道芸を見守っていた。

「何、真剣に見てるの?」
里奈が話しかけると、蓮は、腕組みを解いて、視線を合わせる前に、笑った。

「そうでもない。ただ、見てるだけだよ」
そう言って、こちらを見ると、少し目を瞬かせた。

「どうした?何か様子が変だよ」
私は、蓮に話した。古びた石板を買ったこと。セラミックの皿が入った袋を盗まれたこと。派手な格好をした人が、ここを通らなかったかどうか。

「石板と交換したのかい?そういえば、君達が来る少し前に、走り去っていく派手な男を見たが、袋を持っていたかどうかは記憶にないな」
「私、ばかみたいよね。それで、その男はどっちの方へ行ったの?」
「向こうだ」

蓮が指差したのは、居住区外の方角だった。

「居住区外へ行ったというの?」
「おそらく。この狭い地区で、僕達が決して追いつけない場所といえば、居住区外だと思わないか」

居住区外・・・ 私達は、親からきつく言われている。子供は、居住区外へ行ってはいけないよ。1度行ったら、2度と戻ってこられないよ。

「取り返したいな」
蓮がつぶやいた。
「汚いやり方で、ひとの物を盗むのは、許せない」

静かに蓮は怒っているように見えた。

「私は、自分のばかさ加減が、許せないわ」

母さんが作った大事なセラミック。母さんがたくさん持たせてくれた分だけ、母さんの気持ちがこもっていた袋の中身。それを思うと、胸が痛んだ。こんな古びた石板なんかに気を取られて、情けない。

「こんな物、捨ててしまうわ」

今までぎゅっと握りしめていた石板を捨てようとした時、蓮が制止した。

「とっておきなよ。それ、古い石板だろう。古いものには、どんなものにも負けない価値があるんだ。金品では測れないような価値がさ」

蓮は、石板を手に取って言った。

「軽いね。こういう素材は、僕は今まで触ったことがない。ただの石や焼き物とは違って、なにか不思議な感じがする。ほら、ここの部分、よく磨けば、黒っぽく、光りそうだ。おもしろいね。こういうものの価値のわかる人が、身近にいる?もしよかったら、僕が買い取って、その筋の人に見せようか」

蓮は、本当にそう思っているのかわからないが、私を気遣って、石板を買い取ろうとしてくれているのだと思った。

「いいのよ、大丈夫。これね、父さんの祭壇にささげるわ。うちの父さんは、考古学者だったのよ」

その時、里奈が、訊き返した。

「うちの父さんってどういうこと?乃亜、父さんのことを知ってるの?」
「ええ」
「嘘!」
「嘘じゃないわ。父さんは、8歳になるまで一緒に暮らしていたのよ。といっても、ほとんど旅に出ていてうちを空けることが多かったけれど」
「そんな作り話をするなんて、乃亜らしくないわね」

私は、父さんのことを否定された気がして、むきになった。

「作り話なんかじゃないもの。里奈だって、父さんがいるでしょう?」
「いるわ。でも、『父さん』って人は、どこにでも存在していて、どこにもいないのと同じでしょう?」
「なにそれどういう・・・」

蓮が、間に入った。

「よそう。乃亜は疲れて混乱しているだけだろ。ちょっとのつくり話くらい誰だってするよ」
「なんで、乃亜のほうをかばうのよ」
「かばってなんかいないさ」

こんな時は、蓮がいると助かる。蓮は、里奈をなだめる役だ。
私は、昨晩の母さんの言葉をかみしめた。

(あなただけなのよ。身近に、父さんがいたのは)

里奈は、父さんのことをあんな風に言っていた。まるで、人ではないかのように。

(どこにでも存在していて、どこにもいないのと同じ・・・)

それではまるで、神様みたいだわ。
考え事をしていると、蓮が言った。

「とにかく、居住区外へ行くのは、危ないけど・・・横穴まで行かなければ大丈夫だから。僕が行って、見てくるよ」

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2010-06-12 00:46  nice!(0)  コメント(0) 

別天地へ行け 5 バザール [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif5 バザール

翌朝、起きてすぐに、私は、発電機のスイッチを入れた。
取っ手を回すと、自家発電で熱が回る。
ランプの灯がともった。ほの明るい灯に癒される。水場へ行き、顔を洗い、小川の水をくんで鍋に入れて戻ってくる。
母さんは、まだ眠っている。
昨晩は、眠れなくて、父さんのことを考え続けた。父さんと母さんの出会いから、私が生まれるまでのいきさつを。
父さんは、大学の研究者だった。旅が多かったのは、大学のフィールドワークをしていたためだ。
元気だった時の父さんは、よく旅土産に、他の村での特産物のきのこやら紙やらをくれたものだ。
いつだったか、きれいな石のかけらをくれたことがあった。そういえば大きなリュックいっぱいに石が詰まっていたことも。
でも、私が、8歳のころ、死んでしまった。
私には、血のつながった家族は、母さん一人だと思っていた。
でも、もう一人いたんだ。
その人は、どこで何をしているんだろう。
一人きりで、さびしくはないだろうか。
母さんは、どうして、逃げ出したりできたんだろう。
社会の仕組みから逃れて、生きていくことは、とても恐ろしいことな気がする。もしも、父さんに出会わなかったら母さんはどうしていたのだろう・・・それを考えると、さらに恐ろしくなる。
母さんは、住んでいた土地を逃げ出した。頼れるのは、父さんだけだったろう。
じゃあ、父さんに出会う前の母さんは、どうだったんだろう。
精神的に不安定だったに違いない。
だから、逃げ出したりしたんだ。
そして、社会から逸脱した先に、「たった一人の愛する父さん」を見つけた。
そんなリスキーな生き方が、私にできるだろうか。

母が目を覚ました。
豆のスープとパンの食事を済ませ、出かける準備をしていると、目の前に、袋が差し出された。
「これを持って行って」
中を開けると、とても綺麗なセラミックの小皿がたくさん詰まっていた。

「これ、いいの?」
「ええ、里奈ちゃんと一緒に、行くんでしょ?何かいいものがあったら買ってきなさい」
「うん、わかったわ、行ってくる」

嬉しくなって、夢中で走っていくと、待ち合わせの橋の前で、里奈が待っていた。

「おはよう!今日は、楽しみね。いろいろ、見てまわりましょうよ」
里奈は、持ってきた袋を掲げて、指差した。
「袋の中は、ただの素焼きの皿だけど。乃亜のも、見せて」
私が、自分の袋を開けると、里奈は、わぁと言った。

「綺麗なセラミック。さすが、乃亜んちは、母さんが職人さんだものねぇ」

 街では、年に数回、バザールが開かれる。街と公園の両方に、他の地域から持ちこまれた特産品が集まる。私たち第22区では、セラミック(陶磁器)と交換ができるため、各地から、商人たちが買い付けに来る。
衣服、野菜、お菓子、種、装飾品、電機物・・・いろいろなものが売っていて、長い棒、置きもの、ただの土くれや石など、何に使うかわからないようなものも多数あった。
広場には、曲芸師がいて、踊ったり歌ったりしていた。

私たちは、あちこち見ながら、連れだって歩いていた。
ある店の商人が、声をかけてきた。

「お嬢ちゃん、袋に何が入ってるのか、見せてくれない?いい物と交換してあげるよ」
「え?あ、はい」
里奈は、愛橋があり、大人から可愛がられるタイプだ。2人で歩いていれば、大抵、里奈のほうに声がかかる。
「ああ、素焼きの皿だね。こんな皿じゃあ、水も汲めないじゃないか」
「そ、そんな」
「大丈夫です!何も要りませんから。行こう」
私は、里奈の腕を引っ張った。

里奈は、商人の一言に大いに傷ついてしまった。
「気にすることないわ。あの店、変なものばかり置いていたもの。素焼きの皿は、神様に捧げものをする大事な皿なのよ」
「でもさ、乃亜んちのセラミックのお皿だったら、なにかいいものと交換してくれたかも・・・」
「何にも買いたいものなんかなかったわよ?」

2人で立ち止まっていると、
「どう?これと交換しない?値打ち物だよ?」

急に背後から、声をかけられた。
振り向くと、派手な装身具をつけた大人が立っていた。男か女か見た目ではわからなかった。
派手すぎる衣装に包まれた服の中から差し出された手の中に、薄汚れた小さな石板があった。

「これは、王宮の遺跡から出土した物だよ。お姉ちゃんのその素焼きの皿と交換してもいいよ」
「・・・」
怪しい大人の持っているその品は、とても値打ち物とは思えなかった。でも、心ひかれるものがあった。

「どうしよう、交換してくれるんだって。怪しいよね」
里奈が、口に手を当ててひそひそと話す。
私は、訊ねた。

「王宮の遺跡って、本当にあるんですか?」
「あるとも!」
「地下世界を支えていた柱を守る王族が住んでいたっていう場所でしょう?発掘しているんですか?」
「しているとも!」
「それ、見せてもらっていいですか?」

とにかく、本物か偽物か、見ただけではわからないので、手にとって確かめてみたかった。
手のひらに乗せると、以外に軽かった。

「乃亜、買うの?」
私は、何か血が騒いだ。本当を言うと、私ではなく、死んだ父さんが、とても欲しがるだろうなと思ったのだ。
「買おうかな」
「毎度あり!じゃあ、素焼きの皿3枚と交換だ」
「えっと・・・素焼きの皿は持っていないんです。セラミック3枚じゃ、だめですか?」
「ほほう、姉ちゃんは、価値がわかるらしいな。セラミック3枚、おや、よく見えないな。袋を貸してごらん、中からいいのを選んでこよう」

怪しい大人は、私から袋をとりあげると、ちょっとそこで待っていな、と言って、店のテントの奥へ入った。
男が戻ってこないので、テントの奥をのぞいてみると、さっきの大人とは違う男が座っていた。

「何か探し物かの?」
「すごく派手な服を着た人が、私の袋を持ったまま、テントの中に入ってしまって、出てこないんです」
「ああ、さっきの派手な男なら、反対側から出て行ったよ」
「ええっ!?」

急いでテントを出たが、追いかけようにも、もうその姿はどこにもなかった。悔しいが、騙されたのだ。

「ねえ、でも、あんなに派手な恰好していれば、探していたらきっと見つかるわよ」
「ごめん」
「大丈夫だって。あたしの皿をあげるわ。これは、神様に捧げるお皿よ、すごいんだから」
里奈が、なぐさめてくれた。
古びた石板を手に入れるために、母さんからもらった大事なセラミックを全部とられてしまうなんて、私は、とんだ愚か者だ。

「ねえねえ、乃亜、元気出してね。あっちへ行こう!あら!蓮たちが来てるわ」
里奈が、広場の中央を指差した。

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2010-06-10 16:01  nice!(0)  コメント(0) 

別天地へ行け 4 母の過去 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif4 母の過去

「お帰りなさい。どうしたの、遅かったじゃない。もう母さん、乃亜ちゃんが帰ってこないんじゃないかと心配したわ」
心配性な母につきあっていると、こちらまで、不安が移ってしまいそうだ。
まずは、安心させてあげないといけない。

「ただいま。そんなわけないじゃない。大丈夫よ」
「帰ってきてくれたら、それでいいのよ。夕ご飯にしましょう」
「うん」

うちは、母一人対子一人の家庭だ。

「さっきね、お隣のマナさんと帰りが一緒だったの」
「あら、マナさん、しばらく姿を見てないと思ったら、お家にいたの?」
母が、少し驚いたみたいだったので、どうしてかと思った。

「マナさん、どこかへ行っていたの?」
「さあ、母さんも、よく知らないのよ」
「マナさんね、身体の具合が、最近はよかったのに、また今日、ぶり返しちゃったみたいなのよ。さっき、そこまで一緒だったから、家まで送ってきたわ」
「あらそうなの」
「お隣のうちは、兄弟姉妹が大勢いてにぎやかだったわ」
「そりゃあそうよ」

私と母は、夕飯を食べ終えた。母は、持病を抱えているので、普段、家事は私がしていた。だから、今日みたいに元気だと嬉しかった。

「母さん、休んでていいよ、私が片づけるから」
「大丈夫よ、今日は気分がいいもの」
「いいから、いいから」

私は、母の背を押して、椅子に座らせた。
「乃亜ちゃんには、世話になりっぱなしで、悪いと思ってるのよ。母さんらしいことも、できなくて・・・。来月のお誕生日のプレゼント、何がいい?」
「え?どうしたの急に。物欲なんてないから、なんでもいいわ」
「まあ、ふふふ。あなたのその答え方、父さんにそっくり・・・」
「え、そう?」

母さんが、父さんの話をする時は、笑っていても悲しげな目をしている。だからいつも、あまり父さんの話はしないんだけど、でも今日は、聞いてみたいことがあった。

「ねえ、うちはさ、どうして他の家と違うの?どこの家でも、兄弟姉妹がいるのが当たり前なのに?私には、血のつながったお兄ちゃんお姉ちゃんは、いないの?」
母は、一瞬凍りついたようになり、少し視線を落とした。
「いるわ」
「本当!?」

私は、思わずうれしくなって、顔が上気してくるのが自分でわかった。
「会いたいなぁ。どうして、今まで、教えてくれなかったのよ、母さん」
「遠いところにいるの。母さんもずっと会っていないの」
「死んじゃったの?」
「死んだかどうかもわからない・・・」
「どうして!?」
「その子は、母さんの子であっても、父さんの子ではないのよ」
「そうなの?」

母が、何を言いたいのか、よくわからなかった。
「・・・乃亜ちゃんは、父さんが大好きだったわね?」
「うん」
「あなたには、父さんと暮らした思い出があるわね?」
「うん。でも、亡くなったのが小さな時だったから、少ししかない」
「他の家の子で、父さんと一緒に暮らしたことがある子はいるかしら?」

なぜ、母さんは、私に質問ばかりするのだろう。質問しているのは私なのに。
「里奈や蓮から、父さんの話が出たことはないわ。クラスメイトとも、父さんの話題は出ない」

大好きだった父さんが死んでしまって、私から父さんの話をすすんですることはなかったし、また、誰かに父さんのことを聞かれたことも、1度もなかった。
「どうして?父さんの事と、兄弟姉妹の事と、どう関係があるの?」

母さんは、意を決したように、語り始めた。
「あなたも、もうじき学校を卒業して、16歳になるわね。そろそろきちんと話しておかなければならない年頃ね。乃亜ちゃんも、母さんに似て、考えすぎるところがあるでしょう?だから、あまり、深く思いすぎないでほしいんだけど・・・」

一呼吸おいて、母さんは続けた。

「母さんは、思春期を終えて、保健局へ登録をして、すぐに、妊娠したの。でも、最初の子供はこの世に生まれてこなかった。とてもショックだったわ。相手は、1度会ったきりの人で、もう顔も思い出せない。2度目の妊娠は、また別の人と。今度は生まれてきてくれたけれど、未熟児だったから・・・死んでしまったのよ。母さんね、もう2度と、子供は産めないのじゃないかと思ったわ。
でも、その次の年は、無事に出産して、母子ともに順調だった。母さんは、国からお金をもらって暮らしが楽になった。だけど、生まれた子供は、10か月で、街の施設へ引き取られていった。その街では、それが当たり前だったのだけれど、母さんは、いつしか、声が出なくなってしまった。頭では理解しようと努めたけれど、心がうまくコントロールできなかった。
それでもまた、保健局から声がかかった。身体が健康なら、求愛を受ける義務があったの。そうしないと、生活していくお金がもらえなかった。でも、お金のために求愛されて子供を産むなんて・・・。母さんは、おかしいと思った。よく知りもしない男の子供を、また妊娠するのが恐ろしくなった。
それで、何もかも嫌になって、山へ逃げたの。そこで、どうでもよくなって、倒れてしまっていたところを、父さんに助けられたの」

「母さん、口がきけなかったから、父さんに、事情を話すことができなかった。でも、父さんは、旅の途中で出会った私に、食料と寝床を用意してくれた。母さんが元気になるまで、一緒に旅をしてくれたの。それで、たどり着いたのがこの村だった。
その頃には、母さんは、父さんのことを愛してしまっていた。でも、父さんは、この村にとどまるような人ではなかった。どうしても行かなくてはならない場所があって、危険がともなう場所だから、これ以上母さんを連れていくわけに行かなくなったのね。
父さんは、この村で、母さんの戸籍を取ってくれた。母さんが、口をきけず、病弱であることを理由に、保健局への登録を免除してくれるように頼んでくれたの。その代わり、女であっても、別の仕事ができるように取り計らってくれたのよ」

私は、納得できなかった。

「それじゃ、どうして、私は生まれたの?母さんは、病弱で、もう子供が産めないという届けを出して、別の仕事をもらったんでしょう?それなのに、私を産んだのは、なぜ?」
「父さんと母さんが愛し合ったから、自然に、あなたが生まれたのよ。そして、母さんは、口もきけるようになった。世間の人は、保健局を通して、たくさんの人と交わって、繁殖の仕事をするわ。子供を産むのが仕事になるから、特定の伴侶を持つことがない。生まれてきた子は、父親を知らない。あなただけなのよ。身近に、父さんがいたのは」

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2010-06-10 00:41  nice!(0)  コメント(0) 

別天地へ行け3 居住区へ [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif3 居住区へ

学校からの帰り道、川沿いの道を下っていくと、ところどころに橋が架かっていた。地下世界には、居住区が23区あって、私や里奈の住んでいる第22区の特産品は、セラミックだった。橋を渡れば、街、公園、その先は、セラミック窯場へと続いていたし、岸壁ストリートを行けば、家々があるのだった。

「それじゃあ、明日、街でね」
「うん」

明日の休みの計画を話し、里奈と分かれた私は、ストリートを歩いていた。
すると、立ち話をしている女性達に出会った。女性達は、買い物かごを手に持ち、にぎやかに談笑していたが、その中に、お隣のお姉さんがいた。
お姉さんは、私に気づいて、一緒に帰ろうと、集団の輪の中を出た。

「乃亜ちゃん、遅いのね。今帰りなの?」
「うん。少し、遅くなってしまって」
「そう、早く帰りましょう。もう、宵の月だもの。道は暗いわ。さあ、手をつなぎましょう」
「うん」

お姉さんの名前は、マナさんだ。マナさんは、小さな頃からいつも私の面倒を見てくれる。それは、今でも変わらなかった。年齢は、18歳で、私より2つ上だ。

「ゴホン・・・、ゴホン、ゴホン、ゴホン」

マナさんは、急に、咳き込み、つないでいた手を離し、口を押さえて身体を折り曲げた。
「マナさん、大丈夫?」
「・・・ごめんね、乃亜ちゃん。大丈夫よ。いつものことだから。ゴホン、これでもね、最近は、ゴホン・・・まだいいほう・・・ゴホン、ゴホン、ゴホン」
「しゃべっちゃだめ」

マナさんは、昔から身体が弱い。発作が出ると、大変だ。
幸いにも、家がもうすぐだった。私は、マナさんを、家の前まで連れて行った。おばさんは出かけており、他の兄弟姉妹が、出迎えてくれた。にぎやかな家族だった。

「マナさん、それじゃあ、お大事にね」
「・・・ええ、ありがとう」

私は、マナさん家の戸を閉め、自分の家へ向かった。

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2010-06-09 00:55  nice!(0)  コメント(0) 

別天地へ行け2 愛を夢見る少女 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif2 愛を夢見る少女

キサマは、時間とともに変化するのだった。

有明

正午
白光
夕月

三日月
半月
満月


「宵」の頃までに帰宅することが、校則で定められていた。携帯灯(けいたいとう)無しで歩くのは、危険だった。
里奈は、夢見る表情で語った。

「卒業したら、すぐ、子供を産みたいわ。たくさん産んで育てるの。早く産めば、たくさんの子供ができるでしょう。子供ってかわいいし」
「そうね。里奈は、可愛い母様になれるわよ」
「ありがとう。それともうひとつ」

夕月の揺れる灯りを見ながら、歩いていた里奈の足がふと止まった。

「あたしは、『夕月の誓い』を蓮としたいの」

好きな男の子ができたら、『夕月の誓い』をするのが、女の子の間で流行していた。
卒業間近で、離れ離れになる前に、『夕月の誓い』をしておけば、男の子が卒業したら真っ先に、自分に求愛してくれるという、約束事だ。
でも、実際のところ、誓い合ったカップルがどうなるかは知れない。学校を卒業してしまえば、私たちは、保健局に登録をし、次から次へと求愛されて、子供を産まなければならなくなる。好きな男の子がどうのって、言っていられなくなるからだ。

「乃亜は?『夕月の誓い』を誰かとしたいって思ったことないの?」
「ないわ。そんなの少女趣味、恥ずかしくって」
「少女趣味でもいいじゃない。あたしは、蓮にとって最初の人でいたい。大好きなんだもの。ねえ、乃亜はいないの?好きな人」

月灯りの柱(キサマ)は夕月の時を続けていた。

「私は、1人の人を心から思い続けることと、女としての繫殖の仕事というのは、別にして考えなきゃ生きていけない気がするわ。そうじゃないと、やりきれない気がする。好きな人を作って、一貫した愛を一番重要にとらえていくと、他の男性と交わる時にジレンマに陥って、たった一人の人への愛を捨てなきゃいけないことになってしまうでしょ。だからといって最初から誰も愛さないのは、人間として意味をなさないんだとすれば・・・結局、どんな男の人をも愛する努力をすることが必要な気がするの」

「じゃあ、好きな人は作らないの?」
「うん。いずれはできるかもしれないけれど、今は」
「そう。蓮のことは・・・好きじゃないの?」

いつか訊かれると思っていた。蓮のことをどう思っているのかと。実のところ、そう聞かれたら、どう答えようかと、シミュレーションしていたのだった。

「蓮は、好きだわ。でも友達よ。それ以上には思ってないわ」
「そっか」

里奈は、ほっとした様子で、息をついた。それから、再び、不安を口にした。

「また少女趣味って笑われるかもしれないけれど、あたし、蓮が、他の人に求愛したらと思うと本当に嫌だわ。一生にただ一人とだけ、愛し愛されたいって思うの」

私は、したり顔で言うのだった。

「でも、女性は、どんな男性でも必ず受け入れるようにできているものよ。男だってそうでしょ、たった一人とだけ交わるわけにいかないのよ。それが自然の摂理なんだもの。あたしたちは、まだ少女だから、わからないだけ。大人になれば、疑問なんてなくなるわ。里奈が、蓮を好きならば、蓮との間に子供をいっぱいつくればいいのよ」
「蓮が、他の人と交わるなんて、絶対に嫌!」
「そんなこと言ってちゃ、蓮に、子供だって笑われてしまうわ」

里奈は、こちらを向いてにらんだ。

「乃亜はどうしてそんなに澄ましていられるの?好きな人がいないからそんなこと言えるんだと思うわ」
その言葉に、胸が痛んだ。でも、それを悟られないようにしようと、両腕を頭の後ろで組んだ。

「乃亜の愛ってわからないわ。そんな風に計算して愛せるものじゃないわ」

そうかも知れない。私だって本当はまだ、愛なんてわからないのだ。だけど、里奈よりは、少し大人な自分でいたいのだった。

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2010-06-08 15:42  nice!(0)  コメント(0) 

別天地へ行け1 月灯りの柱 [地下世界ヲ脱出セヨ 乃亜シリーズ♪]

01_02_15_02002803.gif 1 月灯りの柱

 学校は、小川のほとりにあった。グラウンドを縁どるようにして流れる小川のそばに、月灯りの柱が数本立っていて、私たちを照らしていた。。私たちは、靴を脱ぎ、小川の淵に腰掛けて、長いこと語り合っていた。

「なんだか実感わかないな。乃亜はどう?あたしたちさ、もう学校に来なくてよくなるのよ?信じらんない」
素足を小川につけて、里奈が長めにつぶやいた。二の腕まである長い髪が束になって落ちて揺れた。
「そうよね」

実感がわかないのは同じだった。今日も、1カ月後に迫る卒業式の説明会があったのだが、あまり考えたくないなぁとしか思えなかった。

「勉強しないでよくなるのが、嬉しいわ。女は、ラッキーよね。蓮たち男は、高等学校なんかに進んで可愛そう。一生、勉強や仕事に追われるんだもの」

里奈は、幼い頃からの幼なじみ。お互いの家は、第22区の岸壁ストリートにあった。朝は待ち合わせて一緒に登校し、帰りも一緒だった。学校に上がってから、約9年間ずっとそれは変わらなかった。そして、蓮は、同じクラスメイトで、第21区に住んでいた。彼は、クラスの中だけでなく、学校以外でも、一緒に遊んだり、勉強を教え合ったりする仲のいい友達だった。

「蓮は、勉強が好きだから、むしろ、今まで以上に集中できていいんじゃない?私たちに、時間を取られなくて済む・・・なんて思ってるかもよ」

里奈は、ぱっとこちらを向いて反論した。

「もう、乃亜ったら!蓮はね、そんな人じゃないもん。あれで結構、教え好きなんだから。あたし、勉強を教えてもらったり、いろんなこと教えてもらったりしたわ」
「あれ?里奈、顔赤いよ」
「もう、すぐからかうんだもん!」

里奈は、頬を染めてうつむいた。

「あ~あ、蓮と学校で会えるのも、あと1カ月なんて、考えたくないわ」

私たちは、帰ることにして、靴を履いて立ち上がった。

 学校からの帰り道は、小川に沿って数十メートルごとに、月灯りの柱があった。古くから、「キサマ」と呼ばれているその灯りは、私たち地下に住む者たちの寄る辺となっており、いたるところにあった。
広い土地では「ヒサマ」と呼ばれるまぶしい灯りもあるらしいが、私はまだ見たことがない。
「キサマ」も「ヒサマ」も、時刻ごとに明度を変えながら、地下民族の生活を照らし出していた。

「ちょっと遅くなっちゃったね。乃亜んちは、お母さん、大丈夫?」
「うん、今日は、具合がいいみたい。晩ご飯作って待ってくれてると思う」
「そう、よかった。あ、今ちょうど、キサマが、『夕月』になったわね」

月灯りの柱は、先ほどよりさらに、明度が落ち、朱色を帯びた夕月の時を告げていた。

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2010-06-07 17:54  nice!(0)  コメント(0) 

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